―高次脳機能障害を知っていますか?―
様々な状況に直面する「社会的弱者」に対して行政書士が果たすことのできる役割を高次脳機能障害という一例に着目してご紹介したいと思います。
高次脳機能障害とは
交通事故による頭部外傷、脳梗塞による脳血管障害などにより、脳に後遺症が残る場合があります。この後遺症を持つ方々は、外見は平常に戻ったように見えても、「単なる怠け者になってしまった」「人が変わってしまった」と家族や職場で見られてしまうため、社会生活や日常生活の場に復帰することが困難な状況に直面している場合が多いのです。これらの後遺症はいずれも頭部外傷、脳血管障害等による脳の損傷によるものであり、主に記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害が生じ、社会生活・日常生活に影響を及ぼしているのです。このような障害を行政的に「高次脳機能障害」と呼び、障害特性に対応した支援のあり方について検討が進められてきたものであります。
高次脳機能障害の具体的な症状 (ノーマライゼーション 障害者の福祉2005年4月号 高次脳機能障害支援モデル事業の解説 中島八十一より)
記憶障害 物の置き場所を忘れたり、新しい出来事を覚えていられなくなること。そのために何度も同じことを繰り返し質問したりする。
注意障害 ぼんやりしていて、何かをするとミスばかりする。二つのことを同時にしようとすると混乱する。
遂行機能障害 自分で計画を立ててものごとを実行することができない。人に指示してもらわないと何もできない。いきあたりばったりの行動をする。
病識欠落 自分が障害をもっていることに対する認識がうまくできない。障害がないかのようにふるまったり、言ったりする。
社会的行動障害 すぐ他人を頼る、子どもっぽくなる(依存、退行)、無制限に食べたり、お金を使ったりする(欲求コントロール低下)、すぐ怒ったり笑ったりする、感情を爆発させる(感情コントロール低下)、相手の立場や気持ちを思いやることができず、良い人間関係が作れない(対人技能拙劣)、一つのことにこだわって他のことができない(固執性)、意欲の低下、抑うつ、など。
治療から社会復帰の流れ
国立身体障害者リハビリテーションセンターによる「高次脳機能障害支援モデル事業報告書〜平成13−15年のまとめ〜」によると、これまでの調査・統計により、高次脳機能障害者については、急性期医療以降の医療機関によるリハビリテーション医療、社会参加支援として福祉施設などで提供される社会的及び職業的リハビリテーション、地域生活、家庭生活を支える身近な地域での福祉サービスによる支援、就労準備等それぞれの段階に応じた支援が切れ目なく実施される必要があることが明らかになりました。
高次脳機能障害の治療の輪から外れない為に
高次脳機能障害の後遺症と向き合う人たちの治療から社会復帰の流れについて、リハビリテーション医療を行う医療機関、社会的・職業的リハビリテーションを行う社会福祉施設、福祉サービスを提供する行政の連携が大切になってくるのですが、現状の課題として、後遺症と向き合う人たちが情報不足のために連携の輪の中に入れないという場合があります。
例えば、交通事故に遭った場合には、当初身体的な機能回復に重点が置かれ、病院や身体障害者更生施設が社会復帰・生活・介護支援の中心的な場所となりますが、その後発症する高次脳機能障害についてそれらの施設で効果的な対処がなされればよいですが、そうでなければ高次脳機能障害に必要な治療の輪から外れてしまうことになります。
そこで、ここでは「障がい」のある方が日常生活や社会生活を営むうえで必要とする支援の一例を福祉サービス」を中心にご紹介させていただきます。
● 精神障害者保健福祉手帳
一定の精神障がいの状態にあることを記載している手帳で、各種の支援策を受けやすくすることにより、精神障がいのある方の社会復帰の促進と自立、社会参加の促進を図ることを目的とした制度です。医師の診断書を添付して市町村に申請します。主に以下の支援策があります。
? 精神障害者交通費助成 精神障がいのある方に対して、交通機関の乗車運賃等を助成しています。例えば、札幌市の場合、市内のバス・地下鉄・電車の乗車料金、タクシーの基本料金または自動車燃料を助成しています。(手帳等級に応じて選択)
? 生活福祉資金の貸付制度 各市町村の社会福祉協議会が実施。それぞれの状況と必要に合った資金、たとえば就職に必要な知識・技術の習得や高校、大学等への就学、介護サービスを受けるための費用等を借り受けることができます。
? 税制の優遇措置 所得税、住民税、固定資産税、相続税、贈与税、個人事業税、自動車税・軽自動車税、自動車取得税、関税について優遇措置がうけられます。
? NTT通話料金優遇措置・携帯電話の使用料割引 手帳の交付を受けている人についてNTT電話番号案内料の免除や、携帯電話の基本料金等が割引される場合があります。詳細については各電話会社にお問い合わせください。
? マル優等非課税制度手続 金融機関の窓口に非課税貯蓄申告書等を提出することで金融機関の預金について、元本350万円まで受取利息にかかる税金が非課税になります。(マル優)国債についてもマル優とは別枠に元本350万円まで同様の手続きができます。(特別マル優)
● 自立支援医療(精神通院医療)
障害者自立支援法に定める自立支援医療の一つで、市町村の認定を受けます。認定後、特定の精神通院医療を受ける際に必要な医療費の一部が支給されます。原則医療費の1割の定率負担で、住民税の課税状況に応じて負担上限月額が設定されます。
● 訓練等給付(就労継続支援)
障害者自立支援法に定める訓練等給付の一つで、市町村の決定をうけて支給されます。支給決定後、特定のサービスを受ける際に必要な費用の一部が支給されます。
就労継続支援は、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他必要な支援を行います。障害の程度に応じてA型・B型の施設があります。
訓練等給付は他にも自立訓練、就労移行支援、共同生活援助等様々な制度があります。
● 各種年金制度
障害の程度や業務上の障害、交通事故の障害に応じて、国民年金、厚生年金、労災制度、自賠責保険等様々な制度から年金、一時金が給付され、経済面での援助になります。
行政書士が果たすことのできる役割
精神障害手帳をはじめとしてご紹介されてきた福祉サービスは、リハビリテーション医療及び社会的・職業的リハビリテーションと密接につながっています。例えば、自立支援医療の認定を受けることで、病院での通院治療費が1割負担となります。例えば、精神障害手帳を所持していなければサービスの受けることのできない就労継続支援施設もあります。
行政書士は、「福祉サービス」への橋渡しを高次脳機能障害と向き合う方々に提供することができます。また、高次脳機能障害は「サラ金から借金を重ねるが、本人に自覚がない」、「本人の知らないうちに預貯金を他人の口座に移された」等、障害の存在がわかりにくいため、権利擁護に関しても特有の課題があります。こうした問題についても、行政書士と関わりを持つことで、成年後見制度の利用も視野に入れることができます。
高次脳機能障害は病院や身体障害者更生施設が治療拠点となっているのが現状であります。そして、行政の行う支援策は実に多岐に渡りますが、そのほとんどは知ることができなければ受けられないサービスです。行政書士がこの問題に携わることで、?急性期医療→?回復期リハビリテーション→?地域生活支援の流れの中で各段階に必要な支援策を講じることができるのです。